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【特別ロングインタビュー】

共創〟と〝挑戦

富士フイルムイメージングシステムズ株式会社

代表取締役社長

松本  考司

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富士フイルムイメージングシステムズはこのほど、役員人事を行い、その経営トップである代表取締役社長に松本考司氏が就任した。業界歴の長い松本新社長ではあるが、実は業界を離れ、宣伝部や化粧品事業を担当していた時期に、外から写真業界というものを眺めることができたことで、物事の見方が大きく変わったという。コロナ禍という、非常に特殊で困難が容易に想像できる環境の中で、同社をどのように舵取りしていこうと考えているのか?を訊いた。そのキーワードは「共創」と「挑戦」であった。

先の見えない不安定な時代に必要な3つのポイントとは?

 

——今回は、新社長に就任されたということで、松本社長の業界や経営に対する考え方と、とくにコロナ禍で御社の舵取りをどのように進めていこうと考えているか?をお訊きしたい

 

松本社長(※以下、松本で略) 我々がいま置かれている環境は、技術の進歩とか社会情勢とか、 また今回のコロナなどもそうなんですけど、これまではある程度リニアに先が予測できた時代から、 先の予測できない常に不安定な時代に入っていると思うんです。会社の寿命も、かつては30年ともいわれていましたが、いまはもっと 短くなっていますし、世の中の商品のライフサイクルも、2000 年の段階でも〝ヒット商品の寿命は大部分が2年〟などともいわれ ていましたが、これもさらに短くなっていると思われます。こういう時代に、我々はどう生きていけばいいのか?ポイントは3つあると思います。ひとつは「企業理念の具現化」、要するに基本の徹底 です。これは、時代がどんなに変わろうとも、我々のすべきことは変わらずで、イメージング製品・サービスの価値を高めて、お客様の期待を超えるモノを提供し続けることが大事だと思っています。 素敵な形ある物やサービスを提供し続けていくことが基本で、新しい物を創造する。加えて、古くなった物は見直して、時にサービス廃止も恐れない。時代に合わなくなったことをやり続けることは、 その分リソース(経営資源)を使 うことになるので、この部分のスクラップ&ビルドはしっかり取り組んでいこうと考えています。2 つ目のポイントは、「変化するスピードへの組織としての挑戦」で す。お客様のニーズというもの は、どんどん進化し続けていきま す。その変化についていけない企業は、結果として生き残ることはできません。

——それはその通りですよね

松本 このお客様のニーズに追随していく方法としては、ベ ンャーで盛んにいわれている「リーンスタートアップ方式」(コ ストを掛けずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間で作り、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法のこと)的な手法が考えられます。また、お客様 の課題やニーズが大きくなればな るほど、メーカー一社が単独で サービスやソリューションを提供 するのが難しいケースも増えているので、他社さんと協業しながら取り組めるようなビジネスモデルの仕組みを如何に作るか?が必要 になってくると思うんです。こういうことをキチッと早くできる組織体制を構築していきます。そして3つ目は、「富士フイルムの持 つブランド力の活用」です。さま ざまな社会課題を含めたいろいろ な問題が出てくる中で、富士フイ ルムのリソースとは何か?という と、技術開発もそうですが、人も 金も信頼性も、非常に大きなもの があります。この富士フイルムグ ループが持つバックボーンを活用 することで、より大きな企業課題 に挑戦していきたいと考えていま す。とくに、富士フイルムブラン ドが持っている〝信頼性〟に関し ては、一朝一夕に構築された話で はないので、これから先が見えな い不透明な時代になればなるほ ど、富士フイルムの持つブランド が生きてくると思っています。その当たりを如何に して商売につなげ ていくか?そうい う部分にもしっか り取り組んでいき たいです。

 

 ——この3つの ポイントが、松本 社長の経営姿勢の ベースというこ と?

松本 これらを元にしてなんですが、当社にはBtoBとBtoCの領域がありますが、まずBtoCに関していうと、 我々には元々、写ルンですを含めた同時プリント文化が根強く染み付いていて、画像情報をデータ化 する時代前に、まずは画像をプリ ントして〝早く、安く、綺麗に届ける〟ことに特化したビジネスモデルを続けてきたと思うんです。 しかし、すでにスマホが登場して十数年が経っている流れの中で、 実はお客様は、もはや同時プリント文化で育ってきた〝早い、安い、 綺麗〟の延長線上で、物事を考えてはいないんじゃないか?と。デジタルネイティブ世代の入口は フィルムではなくスマホから入っているのに、どうしても我々の頭は、同時プリント文化の延長線上 の考えを切り替えることができない。ですから、写真に向けた新し い価値を、リニアの延長線上では なくて、まったく違う物として提 供していくことが、これからの 我々の使命かなと思っています。 その価値は、まだお客様自身も気 付いていないかも知れません。何 しろ、これまではなかった物ですから。それは我々も同じで、延長 線上から生まれた提案ではなく、 まったく新しいことに挑戦すると いうことが、我々にとって必要になると思います。

 

 ——それは例えるなら、どうい うものが〝まったく新しい価値〟 になる?

松本 例えばいま「ハーフプント」が人気になっていますが、 これは若い世代にとっては新しいし、手頃なサイズでアルバム整理 もしやすいと、受け入れられてい ます。じゃあこれを拡販しようと考えると、お店様や我々の営業部隊からは「10 枚無料キャンペーン」を実施して、お客様に広く認 知してもらおう、ということにな りがちなんですが、これは従来からある考え方で、そこはちょっと立ち止まって考えてみると、そもそもお客様は、ハーフプリントの 価値を知っているのか?。価値も知らないのに、従来型の体験キャンペーンなんて、お客様が意識し てくれるのだろうか?。2001 年には2万7000店あったミ ニラボ店が、いまでは5500 店ぐらいしかなくなっていて、多くのお客様にとっては、自宅の近くに店がある状態ではなくなりま したから、もしかしたら写真プリ ントを手に入れるために、近所の 写真店に足を運ぶという発想すらなくなっているかも知れないの に、来店されたお客様に「ハーププリントってあるんです。いまなら無料で試せますよ」と価格面の みで訴求しても、それは伝わらない。ハーフプリントの価値には「こういうメリットがあって、それって素晴らしいと思いませんか?」 ということをしっかり伝えていかないと、ビジネスとして新しい価値は伝わらないし、普及もしないと思うんです。前述のように、写真店チャネルは年々縮小しています。でも、我々の思考としては〝同時プリント文化はまだある〟と 思ってしまっているんですよ。そ こはまったく変わってきていて、 新しいモデルをどう生み出してい くか?は、我々自身が変わっていかないと生まれないと思っているので、まずこの部分にしっかり取 り組んでいくことが、BtoCの基本になると考えています。 

 

——そういう考えを、お店に伝えていくということですね?

 

松本 お店様とお客様の両方です。お店様が変わるだけでは駄目です、お客様にも新しい価値をス トレートに伝えていかないと。

——BtoBtoCのようなものになるということ?

松本 も、含めてですね。あらゆる繋がりを見直して、組み立て を考えています。いまのお店様も、プリントシステム中心のままのビジネスモデルの延長できているん ですけど、それが実際に年何%と 減り続けているわけですから、違 うビジネスモデルを作って育てて いかないと厳しいんだろうなと個人的には思っているので、新しい 解を見つけていきたいと思います。 

 

——それはハーフプリントのよ うな既存サービスからの〝気付き〟 なのか?それともまったく新しい 物なのか?

松本 概念として、新しい価値を見つけるということ。いまのハーフプリントの例は、いま伸びているので、どうして伸びているのかを調べてみると、お客様は従来型のLサイズのような楽しみ方をしているわけではないと。じゃあ、その楽しみ方の価値を、いまのデジタルネイティブ世代や、写真からしばらく離れていたような人たちがどう見出しているのか? そこをしっかり吸収して、伝えていきたいと考えています。ただ問題は、お客様に接しているお店様のフィルターが、我々と一緒の同時プリント文化目線のフィルター で見てしまうと、そのフィルターを通して入ってきた情報は、我々にとって正しい情報になるのか?ということだと思うんです。逆にいうと、我々としても、ダイレク トにお客様に意見を聞くような、 お店やお客様と「共に」物やサービスを「創る」、いうなれば「共創型」的な形を考えていく必要があると思っているんです。 

 

——共創型とは?

松本 例えばアイドルのグッズを販売したいとなった場合、その アイドルやファン側から「こういう写真やアイコンを商品にして販 売して欲しい」という要望を生か して商品化すると、それは共創型 の商品ということになりますよね。

ポートフォリオの異なる領域のビジネスにも積極的に挑戦

松本 一方、BtoBの領域としては、広告サイネージやID カード分野などが挙げられますが、この当たりはコロナの影響を 受けて、かなり苦戦しています。 やはり市場が低迷する中では、企 業が広告投資を抑える、経費コストを抑える方向に進んでいるのが 現状ですが、その一方で、当社が 10年以上前に作ったSaaS(サース)」モデルの「セキュアデリバー」等が、コロナ禍で企業のリモートワークが増えてきたことで、その需要が急激に増えてきているんです。今後も、市場の変化 が激しくなる中で、当社のポート フォリオとしては全然違うような 領域にも積極的に挑戦すること で、変化があっても生き残れる形 を、富士フイルムの研究部門を含めて、グループとして「共創」していく。こうした新しいビジネス モデル作りにも踏み込んでいきた いと考えています。 

 

——これはもう、物を売る類の 話ではないですものね

松本 お客様が望んでいることをソリューションとして見つけ出 し提案する仕組みを考えて、我々が売り込んでいく形です。 

 

——その成果は出てきている?

松本 あまり詳しくはいえないんですが(笑)、ある業界に提案 して、ビジネスに成りかけている ケースも増えています。

 

——対象は中小企業が多い?

松本 いや、お客者様は大企業が多いです。大企業としても、な んでも自社で開発して賄うよりも、 使えるサービスがあれば導 入したいと考えているようです。 そうした顧客の声を拾ってくるの は、当社のBtoB営業の得意分野なので、そこから自分たちにどういうことができるのか?という 流れがうまく回り始めているところ。これから面白い事例が、いろいろと紹介できるようになるかも 知れません。

 

——外見はブラックボックスだ けど、実はこの部分に富士フイルムの技術が使われている...そんな システムが増えてくるんでしょう ね

 

松本 またBtoB営業は、お 客様第一の観点から、イメージン グ事業部以外の事業部の商品を自由に組み合わせて提案するなど、 BtoBの領域では、お客様の困りごとに如何にして応えていくか?がベースになっています。

 

——それがもっと進んでいくと、先ほどおっしゃっていたような、富士フイルム1社で賄うのではなく、さまざまな企業とも協業 しながら、その時々のシステムインテグレートは富士フイルムが担いますよ、という形になるということですね?これも「共創」といえるわけだ

松本 多分これはレイヤー構造になっていて、システムのレ イヤー構造を組み合わせる中で、 キーになる部分は富士フイルムの技術が入っている、というような イメージだと思います。

——もう従来のフォトビジネス とはまったく違いますね(笑)

松本 理想としては、いつの間にか何やってるか分からない会社 になるのが面白いと思います。なんでもやってるなぁという(笑)。 こういう飛び地でのビジネス(そ れまでの生業とは異なるビジネ ス)をいろいろとやっていることが、これから環境が変わったとし ても、どこかの飛び地が適用できれば、そこを進化させることで、 企業として生き残っていけるのではないでしょうか?これは写真店様の経営にも同じことがいえると 思います。

お客様のニーズが変わったら、応えるお店が変わるのは必然

——お客様の思考が変わったように、御社はもちろん、取引先の お店に対しても変化を求めること は分かりました。ただ写真店経営者の中には、まだまだ旧来のビジ ネスが生業であり、そこにこだわっている人も多いと思います。 そうした取引先への提案は、なか なかハードルが高そうですね?

松本 そこで大切なことは〝お客様〟の存在です。お客様が望む ことに応える上で、小売業の強みは何か?というと、そのお客様のことを自分たちがしっかり分かっていて、お店様でガッチリ捕まえていることだと思うんです。そのお客様のニーズにどう応えていくか?は必然だと。そのニーズに、 いままでの既存製品では応え切れ なくなったとしたら、別に応えら れる物を新しく見つけて提案して いくしかない。

 

 ——ニーズが変われば、それに対応していくしかない

松本 それは我々も小売店様も同じ。そこに我々としては、抱えている課題を一緒に解決していくことが大事だと考えています。ただその根本には、すでに〝お客様の思考は変わってしまっている〟というファクトをしっかり理解することだと思うんです。「こう あって欲しい」とか「こうだろうね」とか「コロナが終わったら元 に戻るよね」といった希望的観測 は、私としてはありえないと思っています。これは実はコロナの前から、そのモデルは厳しくなって いるんだということを、受け止め なければ。

 

 ——そうですね。コロナを言い 訳にしているところがある

松本 そこをどう見つめ直すか?そしてどういう風に変わるべきか?その挑戦をしっかりやって いきたいです。幸い、富士グルー プでイメージングを担当してきたメンバーは、2000年からのデジタル化の波の流れの中で、〝変わらなきゃ〟という気持ちをみんな持っているので、いま、もう一 度その波が来ているということも、すでに気付いているはずです。 もちろん、この考えは社内的に徹底させていきますし、その変化に 挑戦して新しいことに取り組んで いくことの舵取りが、私の社内で の役割だと考えています。

 

——コロナが開けたとき、業界や御社でも、まったく違うエポッ ク的な現象が起きているかも知れ ませんね

松本 その要素はいろいろあると思います。5Gなどもありま すし。多分、これからも変わる し、その加速度感が違うと思いま す。それをどう捉えるか?例え ば、フィルムや写ルンですは、結 構安定して売れています。この現象を、かつての延長線上に考える人は〝リバイバルブーム〟と捉えているんですけど、私は全然そうとは感じてなくて、これはまったく違う欲求を満たしたいと思っている人がフィルムや写ルンですを購入されているのであって、デジタルに対してのアナログの良さみたいなところを知り、そこに価値 を見出しているんだと思います。 フィルムなんて1,000円を超えるケースもあるのに、ただのリバイバルブームでそこまでお金を出しますか?といったら、多分出さない。このように、ひとつの物事や現象をどう考えるか?で、ビジネスの姿勢はガラッと変わって くるんです。リバイバルとして捉 えるのか?まったく新しいニーズ が生まれていると捉えるのか?で 対応策も異なりますから、その判断する眼を養うことも大切になる でしょう。

——ただ、御社がそういう考え で突き進んでいこうとすると、現場ではますます付いていけなくな る人が増えてきちゃいますね。そ れはもうしょうがない?

松本 そうならないようにしていかないといけない。これは社内のコミュニケーション量も大事になってくると思いますが、基本的に社員は、もう気付いていると思うんです。でも、先ほどいったように、コロナが収束すれば元に戻 ると思いたい。でも、これはたらればの話で、現実はそうではないことを、しっかり会話して伝えていきたいと思います。子どもの数を例によく話すんですけど、少し前までは子どもの人口は100万 人といわれていたのに、いまや 70~80 万人まで落ち込んでいる。すると、節もののビジネスをやられ ているお店様は、売上が2~3割落ちることになりますが、これって当たり前のファクトなんですよ。コロナであろうがなかろうが 落ちるのは事実だから、そのためにどう対策してどう動くのか?そういうことを、我々としてもしっ かり取り組んでいくことが大事なんじゃないかなぁと感じているところです。

写真業界を外から見ていた 7年間が"気付き"を与えた

松本 私は7年前までコンシューマフォトのマーケティングを担当していたんですけど、そこから離れて、宣伝部に2年、その後に化粧品事業を2年担当したんですが、その間、外から見る癖が つきました。加えてBtoBを経験したことで、物事の考え方の フィルターの切り口を変えて見られるようになったと思います。だから、もし写真部門にずっといた としたら、前述したような〝気付き〟は生まれなかったのではないでしょうか?。

 

——新しい血が加わったことで、それまでとは違う新しい見方が生まれたわけですね

松本 これって、みなさん同じだと思うんですよね。同じというのは、世界が自分の見ている範囲 だけだったものから、少し外れて外からそれを見ると〝気付き〟っ て生まれるじゃないですか。これを業界の中でいうと、その〝気付 き〟を得るようなことを、どういう仕掛けの中で入れていくのか? お店様を例にいうと、例えば若い アルバイトの子が入ってきた時 に、普段のお店のオペレーション内容を教えるだけでは、そこに〝気付き〟は生まれませんよね。でも、そこで店主が「いま若い子の 間では何が流行しているの?」とか、その子としっかり会話してみると、「若い子はこういうことに 興味があって、こういう姿勢で物事を見ているんだ。だったらこう変えていった方が良い」という〝気付き〟が出てくるんです。で すから、先ほど記者さんから「(物事の考え方をガラリと変えることで)社員が付いてくるのか?」という質問がありましたけど、私にできることは、そうした〝気付 き〟を社員に与えることしかないと思っていて、そこからは社員の力を信じるしかありません。確か に、上からトップダウンで決めるとなると、恐らく反発もあるでしょうし、付いていけないということもあるでしょうけど、彼ら自身が自分たちの中で〝気付き〟が 出れば、彼ら自身が変わっていくと思っているので、そういうことをキチンと伝えることができるか?それと、あとは「挑戦する」「新しいことをやる」ということが、これからの基本なので、それ を社員がやりやすくしてあげる仕 組みを作ること。ここが大事だと考えています。まぁ、何年後かに 何も変わってなかったら、私のポ ストが変わってるかも知れません けど(笑)。でも、これまで語らせてもらったことにブレはないと自分では思っていますし、それをみんなと共有して、同じ想いの仲間を作っていく。これは社内だけでなく、社外に対しても同じで、 同じ志を持った企業と共創しながら、新しいものを作っていく。い うなれば「共創」と「挑戦」ですね。 既存のパラダイムに向けて変えていくのが「挑戦」であり、既存の パラダイムを変換させて、新しい 何かを生み出すのが「共創」なん だと思います。

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